2003年5月17日(土) Fiction、出来ました
マスタリング終了。Fiction、US版が出来上がりました。
今回は滞在期間も長く、マメにレコ日記を更新するつもりが結局毎日何かと忙しく、既に明日が最終日でございます。
US版に収録されるのは新曲録り下ろし?が4曲、今までサントラに収録した中から、全く頭から録り直した曲が2曲。何らかのトラックを入れ替えたり増やしたり、又は歌のみ残してオケを一新した後Remixをしたものが5曲の計11曲。日本版はもう少し曲数が増えます。
曲目などの詳細は日本に帰ってから新たにアップ致しますが。
今回US版の曲順でマスタリングを済ませましたが、日本版の曲も全て録り終え、Mixも済ませました。
こちらに到着してから、始めの数日はレコーディングに終始。
弦、アコーディオンやバンドセットものを録り、その後連日歌を録りまくり、イーリアンパイプの録音も致しました。
イーリアンパイプは数年前からずっとずっと使ってみたかった楽器だったんですが、今回素晴らしいプレイヤーさんにも恵まれて、夢がかなった形のレコーディング。堪能しましたの一言です。
弦は8-6-4-4-2のフルセットでsalva nos収録。salva nosは歌もオケも全て録り直し、女性コーラス隊も入れたりしてサイズも変わった形に。ダブカル入れたのがfake wings、zodiacal sign、それから新録の2曲、アコギにアコーディオンにチェロ、ヴァイオリン+女性ヴォーカルの形でcanta per meをがつんと新録し、同じ構成で新曲一つ、それから他にバンド一式呼んでlullabyを全く違った形で録りなおした、これは日本版用のボーナストラックになる予定。イーリアンパイプはopen your heart、新曲にたっぷりソロを吹きまくって(イーリアンパイプは正確には全く「吹いて」ませんが……)貰い、日本版ボーナストラック予定の曲にはリールをたっぷり入れて頂き。
旧曲を頭から録り直したものも、別に旧verに何らかの不満があったわけでは全くなく、単に新しい形を試してみたかっただけでございます。逆に旧トラックを生かした形で収録したいものはそうしましたし。
レコーディングもそれぞれ素晴らしく楽しかったです。これ以前に日本でバンド一式、パーカッションや歌、アコーディオンなども録ったのですが、それも全て含めて。音楽に国境は無し。国籍が何処であれ、いい音出す人はいい、ひたすら気持ちいい。ただそれだけですね。
新曲のうち三曲の歌は.hackで沢山の歌を歌って貰ったEmilyさん。残りの一曲と、canta per meを、今回初めてお仕事させて貰ったDebさんに歌って貰いました。
今回のUS版収録の新曲は全て英語歌詞曲です。
本当はインストも数曲含めたアルバムになるはずだった予定が、蓋を開けてみたら、もろ「歌モノ」アルバムになってました。すみません、歌モノ好きなんで堪忍して下さい……。
新曲が全て英語になったのは、US版を意識した部分は実はそれほどなく、規制があった訳でもなく、単にせっかくUSレコーディングをする機会があるのであれば、以前お仕事をさせてもらって是非またコラボレートしてみたいなと思っていたEmilyさんと一緒にやろうと。また、当時米国在住の色々なヴォーカリストさんの声を聴かせていただく機会があり、この人はいいなあと思っていた人たちとも是非やってみたいと……それならやはり英語だろうと。
歌モノ、やってみたい事は数限りなくあり、今回はUSレコやりたい放題(……いや、勝手に放題にしてしまっただけで……すみませんスタッフの皆様……と、とりあえず謝っておこう……)という恵まれた機会でもあったので、その中で出来ること、やりたい事をやっちまおうという野望からです。
以前のサウンドトラックレコの際には、まず曲ありきでその曲にあった方を探し、Emilyさんに歌ってもらった。今回は初めからEmilyさんやDebさんのために曲書きました。ヴォーカルさんを想定して曲書くのは大好きなので、楽しかったですねえ。
今回はEmilyさんに歌詞の校正もしてもらって大感謝。私の歌詞は口語と文語が入り混じっているようで……。すんなりスルーだった歌詞もあれば、Emilyさんとああでもないこうでもないと相当やりあった曲も。この表現が変だとあれば、私の方から構成案を出してみたり、Emilyさんから出して貰って、それはちょっと私の言いたいことと違うとか、その言い回しは素敵だ!とか、言葉はいいけれどメロ的にちょっと、とか、こちらに来た初日はそんなミーティングで終始しました。
英語勉強しよう……と今回何度も思ったり。とりあえず帰ったらあれ買おうかと。「一ヶ月聴き続けたら、私いきなり英語ぺらぺらになっていたんです!」的CD。本当になるのでしょうか。待てレポート!
言葉とメロディーの関係は、歌モノであればどれも何より大切に決まっております。基本的に日本語に合うメロディーと英語に合うメロディー、またはそのほかの言語に似合うメロディー……メロディーというより譜割りの問題になると思いますが、かなり違うと思っていまして、(無論かぶってくることもありますけれどね)そういう意味では「yukilish」……梶浦言語というか、意味のない言語歌詞を適当にそう呼んでいるだけですが、は楽?で楽しいですね。がちがちに8を刻むようなメロというか譜割りには、がぜんアジアとか東欧的言葉の響きが合うと思っていたりするんですよ。ロングトーン中心の、でも頭に力のあるどこかしらクラシカルなメロにはやはりイタリア語とかラテン語とかの響き。yukilisyだと、一曲の中にその二つを混在させる事が出来たりする。がっちん刻みのスキャットに近い部分にはアジアor東欧的な創作言語を、よりラメンティングな部分にはイタリア・ラテン系の響きの創作言語を。また、歌詞の「意味」に曲が縛られたくない場合もあり、そんな場合には創作言語を使うのがなんとも楽しいですね。
話が長くなりがちですが……。
レコーディング終了後、Mixに入ったのですが、今回のMixは全てこちらで。
本当は日本で何曲か落としてくる予定だったのですが、「この曲には弦を入れたい!こっちにはパイプ入れたい!」と我侭を言っているうちに、日本で落とせる状態にまで持っていける曲が結局皆無に……(汗)。す、すみません、我侭やりました……。
Mixingエンジニアさんは、日本からお付き合い頂いたTakeshi Koiwaさん、Joe Chiccarelliさん、Tony Volanteさんの三人で、SoundTrackStudioの二つのスタジオを押さえて平行MIXという忙しい中にもなんとも贅沢な形で。Mix、三人三様、どれも素晴らしい出来で大満足です。
日本での収録からマスタリングまで、素晴らしいプレイヤーさんのプレイに聞きほれ、好きな歌い手さんの歌に聞きほれ、エンジニアさんのMixに聞きほれ、たまには楽しく裏切られ、最後にGeorge Marinoさんのマスタリングに聞きほれ、という何とも楽しい時間でした。
超自己満足状態で申し訳ありませんと思いつつ、でも「今」好きなことをやれるだけやったので、自分では何も後悔の無い、これが今の私が音楽を楽しんで作った一枚ですと言えるものに仕上がったと思っております。
後は、この音楽を聴いて下さる方に楽しんでいただける事を文字通り祈るのみです。
音楽を作る上で、聴いてくださる方に楽しんでいただけるかどうかは誰にも本来の意味で予測なんて出来っこないと思っております。ある意味作り手が「リスナーはこれが聴きたいだろう」と予測しつつ作るのは、聴き手の意思を尊重しない高慢な態度ではないかとも。無論これは私の勝手な考えであり、どんな考え方が正解という事はモノを作る上で存在しないとも思いますが。
作り手としては、まず自分がやりたいこと、作りたい空間を自分が満足……最終的な満足は永遠に得られないとしても、その時再現できる方法で作るしかない、それが作り手に出来る精一杯であり、その音を聴いてくださる方が楽しんで下さるも、「クソ」と判断されるも聴き手の自由。自分が「良し」と思って作れた音楽なのであれば、それがその後リスナーの方に「好き」と言ってもらえればそれはもう天にも昇る嬉しさでありますし、逆にたとえ「クソ」と判断されて何の評価も得られなかったとしても、実は個人としてはそれほどの打撃じゃないんですよね。売れる売れないという商業的評価も含めて。……そりゃ人間ですから、「クソ」と言われればヘコみはしますが(笑)。それよりも自分の中に作りたいものが何も無くなってしまったり、何らかの音を「良い」「好き」と思えなくなる状況の方が果てしなく辛い。
だから今回、今の「好き」を正直に形に出来た特に新曲のプロジェクトは、とても幸福なことでございました。色々な意味で「音楽が好きだなあ」を再確認出来、新たなエネルギーを得る事が出来た心持ちでございます。「これがやりたい」「好き」というエネルギーは実はとても瞬発的なものであり、一度失うと二度と戻ってこないものだとも思っておりますし。それをキープする唯一の方法は、誰に何と言われようと好きなことをやり続ける我侭さにしか無いなとも。こういった考え方の方が傲慢なのかもしれませんけれどね。まあ、エネルギーの発熱源も結局人それぞれということで話は終わっちゃうんですが。
……と、今日ちょっと打ち上げモードでかなり飲んだもので(の、喉元までワインが……)、酔っ払いの戯言で熱い事を言ってはおりますものの、やはり聴いて下さる方に「いいね」って言ってもらえれば嬉しいなあという欲はございますです。それもかなり(笑)。音楽だって当然自己表現ですしね……ただ作り終わった今、私の中ではFictionは一旦終了。後は本当に祈るのみといった所でしょうか。
音楽を聴く上では何の理屈もいらず、作り手の思惑も自己満足も思い込みもすったもんだも、どこでレコーディングしたかも聴き手の方には本来何の関係もなく。
ただ、楽しんで頂けますよう。
最後に一言切実に。
せめて酒飲む席では煙草吸わせてくれ~~NY!(涙)
明後日帰国致します。
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